●財表・論文合格のコツ●

シリーズその1
<14年の本試験分析第3回>



・論文式試験・財務諸表論の合格のコツをいろんな角度から見ていきます。

・このシリーズでは、本試験問題対策の重要性を確認します。

まず14年の本試験を分析し、その延長で過去問対策の重要性を探っていきます

・なお、このページは不定期で更新します。

14年論文式本試験・第3問・問2の(1)はこちら(スマホ可能)
14年論文式本試験・第3問・問2の(2)はこちら
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14年論文式本試験・第4問・問1】

外貨表示財務諸表項目の換算に関する以下の問に答えなさい。ただし,解答にあたって下記の用語を使用する場合には,略称を用いること。
       
取引日レート:HR
期中平均レート:AR
決算日レート:CR

⑴下記の文章の空欄にあてはまる用語を答えなさい。

 わが国の「外貨建取引等会計処理基準」は,昭和54 年の公表以来,在外支店の外貨表示財務諸表について,貨幣項目の換算に関しては( a )法に( b )法を加味した考え方,非貨幣項目の換算に関しては( c )法の考え方を採用してきた。したがって,回収期限が決算日の翌日から起算して一年を超える金銭債権の換算については( d ),それ以外の金銭債権の換算については( e )を換算レートとして適用していた。これに対して,平成11
年の改訂では,外貨額では時価の( f )を負わないので時価評価の対象とならないものであっても,円貨額では為替相場の( f )を負っていることを重視し,在外支店の外貨建金銭債権については( b )法による区分を設けないこととした。

⑵わが国における外貨表示有形固定資産の処理を例にとって,( a )法と比べて( c )法が合理的とされる理由を説明しなさい。(7行)

問われている概念

・見た目はテンポラル法と貨幣・非貨幣法が問われていますが、その中心は「測定属性」いう概念が問われています。

・また、本問の背後には、投資の継続や投資の清算・再投資といった「投資の行動」、取得原価基準や時価基準といった「資産の評価基準」、外貨換算とは測定尺度の変更であるという「換算の本質」という概念も存在します。

・論文式本試験の第4問は、例年、このように「奥の深い問題」が出題されております。

出題意図

守りの解答(制度会計の視点)と攻めの解答(理論的観点)の違い 
・(1)の( a )法が貨幣・非貨幣法、( c )法がテンポラル法であることが解っていることを前提に(2)がありますが、(2)は制度会計の視点と理論的な視点のいずれで書くかについて悩む問題です。

・というのは、後から詳述するように、制度会計から書くのは簡単ですが、それだと理論的に矛盾することを書いてしまうからです。

・理論的に矛盾があることを書くことは、短答式試験ならいざ知らず、論文式式試験では抵抗があります。過去の論文式本試験では、制度会計の視点も出題されていますが、むしろ制度会計以外の視点の方が出題されていることを考えても、矛盾を含む制度会計の視点よりも、概フレと理論的に整合する理論的な視点の方が論文式本試験では好ましいと考えられます。

・ただ、この理論的な視点で書くことは、深い理解をしている一部の受験生だけと思われます(アクセルでは学習済みですが)ので、結局、本問は、受験生のタイプにより何を書くかが変わるという問題です。

・<ケース1>「守りの解答」
本問の論点は簿記で学習しているので、制度会計の視点に立って書くことはさほど難しくないでしょう。受験一年目のように、あまり深く学習していない方などには、制度会計に立脚して、守りの解答を書いて、貯金はできないが借金もしないボーダーラインの得点を狙うアプローチが妥当と思われます。

・<ケース2>「攻めの解答」
制度会計の視点で書くと、平成24年論文式本試験第5問・問2(4)で出題された論点の解答と明らかに矛盾してしまいます。後述するように、概念フレームワークまで遡って理論的に考えると(この視点は過去の本試験で繰り返し出題されています)、理論的に矛盾する制度会計の処理で解答するよりも、理論的な視点で解答する方が高得点を獲得することになるでしょう。科目合格を目指すならば、このような「攻めの解答」の方が適切です。

 

守りの解答(制度会計の視点)
・「守りの解答(制度会計の視点)」の典型は、次のようなものでしょう。 
 

外貨建で取得した固定資産を減損処理した場合、貨幣・非貨幣法では、固定資産が非貨幣項目であることから、HRで換算することになってしまう。これに対して、テンポラル法では、減損処理した固定資産の回収可能価額の属性は時価と同様に決算日現在であることから、その測定属性を反映するように換算すると、CRが適切である。このように貨幣・非貨幣法よりもテンポラル法の方が、測定属性を適切に反映することができるので、合理的である。


・しかし、この解答は、次のように矛盾を含みます。

減損処理した後の貸借対照表価額の測定値を時価とみて、その属性を決算日現在とみることは概念フレームワークの考え方に反することになります。

・平成24年論文式本試験第5問・問2(4)でも出題されたように(当問の詳細は後述参照)、我が国の固定資産の減損処理は、投資の清算・再投資を想定した時価基準でなく、投資の継続の下に取得原価基準の適用として行われるものです。

・取得原価基準として適用されるということは、減損処理は減価償却と同様に原価配分の原則の適用であり、貸借対照表価額は取得原価の原価配分された金額です。減損処理と減価償却の違いは、損益計算書に配分されたものが、減価償却費の場合には当期の収益で回収されたものであるのに対し、減損損失の場合は当期の収益で回収できなかったものであるという点だけです。したがって、減価償却であろうが、減損処理であろうが、貸借対照表価額は取得原価の原価配分額である以上、その属性は取得時であります。

・アメリカのように、減損処理を投資の清算・再投資の下に時価基準の適用として行われるものであるならば、貸借対照表価額の測定値が時価である以上、その属性は決算日現在となり、CR換算が適切です。

・しかし、我が国は、国際会計基準と同様に、減損処理を投資の継続の下に取得原価基準の適用として行われるものと解している以上、貸借対照表価額の測定値は原価であり、その属性は取得時となり、HR換算が適切です。
 

・そうはいっても、皆さんの中には・・・

「だって、制度上、減損処理した後の金額はCRで換算しているではないか?実際、簿記ではそうしている。簿記の処理は会計基準に従ったものであり、会計基準は理論的なものである以上、簿記的な処理をもって解答した方がよいのではないか?」

「回収可能価額は将来のキャッシュ・インフローである。将来のキャッシュ・フローの属性は過去でなく現在ではないのか?」

・・・と思う方もいらっしゃるでしょう。

・しかし、制度会計(会計基準)が常に理論的というわけではありません。短答式試験と異なり、論文式試験では制度会計の処理よりももっと理論的な処理は何か?という問題が過去にも出題されているので、制度会計がCR換算というだけで、その処理が直ちに理論的であると見ることには無理があります

・また、投下した資本のうち回収可能な金額で測定することの意味は、測定属性が現在であることと関係ありません。(このことを勘違いしている方が多いようですので、以下、丁寧に解説します)

・①収益性が低下しておらず、投下した資本が全て回収されるときは、減価償却費を除いた金額が回収可能な金額となりますが、この場合の貸借対照表価額は投下資本、つまり取得原価の配分額であり、測定属性は固定資産の取得時です。

・一方、②収益性が低下し、投下した資本が一部しか回収できないときに、回収不能な金額は資産性がなく(経済的資源が存在しない)、回収可能な金額だけが資産性がある(経済的資源が存在する)ので、割引価値と正味売却価額のどちらか大きい方を用いて測定するという話は、資産の認識の問題(資産性が存在するかどうかの問題)でしかありません。投下資本のうち回収可能な金額だけで測定することは、「投下資本のうち」「資産性が存在するものしか貸借対照表に計上できない」ということです。

・例:投下資本(取得原価)が100、減損損失(回収不能な金額)60と考えると、100から60を差し引いた40の意味は、40についてだけしか資産性が存在しないということです。

・この40は売却により実際に回収された金額ではなく、貨幣性資産ではありません。この40は、固定資産の未償却残高と同様に、将来の収益によって回収されることが予定されたものというだけで、翌期以降に減価償却によって原価配分され、それが翌期以降の収益によって回収されるというものでしかありません。つまり、この回収可能価額40は、投下した資本の一部(費用性資産)であって、実際に回収された資本(貨幣性資産)ではないのです。このように、投資した資本のうち回収可能な金額で測定するからといって、測定属性が現在であることにはならないのです。

・では、その測定値は何を意味するのかというと、「投下した資本の一部」、つまり定資産に投下した資本の一部です。それは、固定資産の取得原価のうち、資産性が存在する金額だけを配分して貸借対照表価額を決定するということですから、固定資産の取得原価を配分した金額でしかありません

・このようにみていくと、減損処理した固定資産の回収可能な金額の測定値は時価でなく原価であり、その属性は決算日現在でなく固定資産の取得時なのです。

 

攻めの解答(理論的な視点)
・では、「攻めの解答(理論的な視点)」では、どのように解答すればよいのかを考えてみます。 
 

 外貨換算の本質は測定尺度の変更にあるが、この本質と整合するのは貨幣・非貨幣法でなくテンポラル法であることを、外貨建で取得した固定資産の減損処理を例に説明してみる。
 減損処理には、米国のように時価基準の適用や我が国のように取得原価基準の適用があるが、貨幣・非貨幣法では固定資産が非貨幣項目であることから、いずれもHRで換算されてしまい、合理的でない。
 一方、測定属性を反映するように換算するテンポラル法は、減損処理が米国のように投資の清算・再投資を想定して時価基準の適用として行われる場合にはCRで換算し、我が国のように投資の継続を想定して取得原価基準の適用として行われる場合にはHRで換算されるため、外貨換算の本質と整合し合理的と考えられる。


・わが国の制度会計の視点に立って、「貨幣・非貨幣法ではHR換算、テンポラル法ではCR換算、だからテンポラル法の方が合理的である。」という解答も考えられますが、すでに説明したように、理論的に矛盾します。

・しかし、理論的な視点に立つと、「貨幣・非貨幣法ではHR換算、テンポラル法でもHR換算になり、テンポラル法の方が合理であるという説明ができないのではないか?」という疑問を持つ方もいらっしゃると思います。

・でも、すでに説明したように、テンポラル法の合理性は、「換算の本質である測定尺度の変更という考え方と整合するのはテンポラル法である。」という意味に解すれば、何ら問題なく解答できるでしょう。


 
受験の戦略として、「攻め」と「守り」を使い分ける事は大事! 
・このようにみると、論文式本試験は、短答式試験と違い、いくつかの解答が考えられる場合があります。

・そのうちどれを選ぶかは、「攻め」と「守り」のどちらを選ぶかということです。

・ボーダーラインを狙うなら、制度会計の視点に立って「守りの解答」が無難ですし、科目合格を狙うなら、理論的な視点に立って「攻めの解答」を選択すべきでしょう。


過去問の重要性

・本問も、過去問が重要な意味をもちます。過去問の考え方と整合しているかどうかを考えれば、「攻め」と「守り」の選択が出来るからです。

・以下に、平成24年論文式本試験第5問・問2(4)の問題と解答を示しておきます。
なお、(3)の問題は(4)に関連しますので、併せて掲げておきます。

平成24年第5問・問2(4)
問題

 ・・・(会話文の一部は省略)・・・
先輩:そうだね。「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」において、減損処理は、棚卸資産の評価減、固定資産の臨時損失・臨時償却と同様に、取得原価基準のもとで行われる帳簿価額の減額であると示されるように、減損処理後の帳簿価額の属性を( ① )と考えていることがうかがえるね。

(3)わが国の現行の会計基準にしたがって計上されるリース資産の貸借対照表価額の評価(測定)属性について、ファイナンス・リース取引を行った場合と、セール・アンド・リースバック取引を行った場合との相違を説明しなさい。(4行)

(4)上記の①に入る評価(測定)属性は、上記(3)のどちらの評価(測定)属性と整合的であるか、理由を付して説明しなさい。(4行)  


 【模範解答

(3)ファイナンス・リース取引を行った場合のリース資産は、リース料総額から利息相当額を除いた金額で測定されるので、その貸借対照表価額の測定属性は取得原価である。一方、セール・アンド・リースバック取引を行った場合のリース資産は、再投資額に基づいて決定されるため、その貸借対照表価額の評価属性は時価であり、この点でファイナンス・リース取引の場合と相違する。

(4)固定資産の減損処理は、投資の継続の下に、投資原価のうち回収可能な原価を繰り越す取得原価基準の適用であることから、空欄①に入る測定属性は取得原価である。したがって、この測定属性は、同じく投資の継続の下に、取得原価に基づいて貸借対照表価額を決定するファイナンス・リース取引を行った場合のリース資産の測定属性の方と整合的である。


本問のポイント

・この平成24年の問題は、今年の本試験と題材が類似し、問われている概念も次のように同じです。

投資の清算・再投資⇒時価基準の適用⇒測定属性は決算日現在

投資の継続⇒取得原価基準の適用⇒測定属性は資産取得時


まとめ≫ 

・前回、論文式本試験では、①題材も概念も同じ問題、②概念は同じだが題材は異なる問題、③題材は類似するが概念は異なる問題が出題される傾向にあることを説明しましたが、今年の本試験問題第4問の問1は①のタイプに属するのです。

本問で新たに知ってほしいことは、次の点です。

・短答式試験と異なり、論文式試験では解答が一つと限らない。

・いずれを選ぶかは「攻めの解答」と「守りの解答」の戦術の問題である。

・「守り解答」の代表は制度会計の視点に立って解答すること。

・「攻めの解答」の代表は理論的な視点に立って解答すること。

 

・「でも・・・そんな深読みは私にはできない・・・」という声が聞こえてきそうです(笑)。

・安心してください。これから1年間、腰を据えて学習すれば、この程度のことは解るようになります。だって、概念に遡るというアプローチで問題を読めばいいだけだからです。おまけに、この概念というものは、そんなにいっぱいあるのでなく、限られた概念をあの手この手で聞いているだけなのです。

・例えば、既に出題している「一日一問」レベルでも、このような概念をきいているのです。(しかも、典型的・基本的な問題レベルです)

本問と関連する一日一問はこちらから(財表・短答問題・問2と論文問題・問2)


・野坂塾では、このような視点を重視して過去問分析や論文式予想問題を作成しております。

 

 
 
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